女性が牽引する時計業界の未来:男の世界を打ち破る革新者たち

かつて男性が支配していた高級時計業界に、新たな旋風を巻き起こす女性たちが現れています。彼女たちはコレクター、リーダー、そしてパイオニアとして、時計業界のあり方に根本的な変革をもたらしつつあるのです。

2020年、高級時計業界はかつてないほどの変貌を遂げました。供給不足と需要の急増、ソーシャルメディアによる盛り上がりなどが重なり、コレクターや投機家、専門家を目指す人が急増しました。しかし、その多くは時計への情熱よりも、短期的な利益を追い求めていたのです。

そんな状況下で、私は時計愛好家のための女性向けプラットフォーム「Dimepiece」を立ち上げました。それ以前は時計初心者だった私自身、高級時計業界に自分の居場所を見つけることができませんでした。

しかし、皮肉にもこの激動の時代が、女性による時計業界参入の扉を開くきっかけとなったのです。女性時計愛好家が増える一方で、業界に長く携わってきた女性たちも、カルチャーと経済の両面での変化を歓迎しています。

デロイト社の「2023 スイス時計産業調査」によると、**「女性時計購入者の潜在力は計り知れない」**と結論づけられています。現代の女性はより多くの収入を得ており、これまで以上に高級時計を購入するようになっています。

しかし、人類の半分を占める女性が「未開拓」の市場と呼ばれるのは、あまりにも不見当な話です。そもそも、時計業界は伝統を重んじる、何世紀にもわたって男性が主導してきた業界です。スイス、この小さな国のとある地域では、なんと1991年まで女性は地方選挙の投票権すら持っていませんでした。1991年ですよ!

時計業界が女性のパワーを享受し、さらなる発展を遂げるために、今回、時計業界で活躍する3人の女性リーダーに話を伺いました。

まずは、2021年1月にオデマ・ピゲのアメリカ大陸CEOに就任したジニー・ライト氏です。ライト氏は、ブランドが女性デザイナーのジャクリーン・ディミエ (1976年に初めての女性向けロイヤルオークをデザイン) を登用したり、女性を重要ポジションに起用してきたオデマ・ピゲの実績を誇りにしています。「以前いた化粧品業界は、消費者の95%が女性であり、ブランドも女性が運営していました。時計業界に入ってカルチャーの違いを感じました。確かに幹部職の女性はまだまだ少ないですが、オデマ・ピゲでは6人の地域CEOのうち3人が女性ですし、グローバルCEOもイルリア・レスタ氏に交代しました。時計業界としては画期的なことです」と語ります。

続いて、クリスティーズの時計部門セール責任者であるレベッカ・ロス氏です。10年以上の経験を持つ、正真正銘の時計のエキスパートです。入社当初は部署の全員が男性でしたが、キャリアを重ねるにつれ、時計業界における女性の重要性を痛感するようになりました。

そして、ジュエリーデザイナーのローレン・ハーウェル・ゴッドフリー氏です。彼女は、私にとって最高級の時計コレクションの一つを所有しています。希少なゴールドのロレックス「コンコルド」GMTマスター 1675や、宝石がちりばめられたファクトリーセットなど、彼女の審美眼が光るコレクションです。しかし、ハーウェル・ゴッドフリー氏は、こうした希少な時計を入手できたのは信頼できる時計ディーラーのおかげだとしています。特に、女性にとって敷居が高くなりがちな中古・ヴィンテージ市場において、ディーラーのサポートは欠かせないと強調しています。

彼女たち3人との対談では、女性が時計業界に参入することで、閉鎖的なコミュニティがどのように変化したのか、パンデミックによる過熱の影響 (正規店でのロレックス購入難など)、そして女性ならではの時計選びのポイントなどについて活発に議論しました。